2007年6月1日 朝刊 石川全県・1地方 朝日新聞
金沢市内で父親が次男を刺殺した事件で、金沢地検は31日、金沢市新保本1丁目の無職河合竹四(たけし)容疑者(58)を殺人罪で起訴した。無職で自宅にこもる息子の家庭内暴力に耐えかねて凶行にいたったとされるが、食い止める方策はなかったのだろうか。
(浅野直樹、加藤藍子)
起訴状などによると、竹四容疑者は10日午前5時半ごろ、自宅で、次男の無職博志さん(24)の首などを刃渡り約9センチの小刀で7カ所刺し、失血死させたとされる。
ホテル避難
小刀は前日の9日、市内のホームセンターで購入した。博志さんの家庭内暴力がひどくなり、前日夜から妻とホテルに避難していた。
「殺すしかないのか」。ためらいながらも10日早朝、竹四容疑者は妻をホテルに残し、自宅に戻った。1階で仏壇が壊されているのを見て怒りがわき、殺意を固めた。2階の和室に上がり、眠っていた博志さんに馬乗りになって小刀を首などに突き立てた。
ニート生活
家庭内暴力は近くの住民も気づいていた。近くに住む男性は「何かが割れる音や『やめて』という叫び声がたびたび聞こえた」と話す。
金沢西署の調べによると、暴力がひどくなったのは2年ほど前。博志さんは短大卒業後、定職に就かないまま暮らし、酒癖も悪かったという。
いわゆる「ニート」生活の博志さんに、竹四容疑者が就職について説教したころから、博志さんは物を壊したり、両親を殴ったりしだしたという。
昨年9月と今年4月には、竹四容疑者と妻から「息子が暴れている」と110番通報があった。金沢西署員がかけつけたが「ことを荒立てたくない」と、竹四容疑者は被害届を出さなかった。
同署は泥酔していた博志さんを一時保護した後、両親の同意を得て一時入院させた。同署は「事件に発展する可能性も視野に入れ、当時、取るべき措置は取った」としている。
口数少なく
竹四容疑者は金沢市役所に35年勤め、農業委員会事務局長などを歴任。昨年3月に退職後もJAに再就職して、田んぼの粗起こしなどの作業を黙々とこなしていた。
JAの同僚は「いかにも役所勤めという堅実な方。口数は少なかった」と話す。犯行後の朝、勤務先を訪れて退職願を提出していた。
捜査関係者は「次男が定職につかないことや家庭内暴力を『家の恥』と感じ、だれにも相談できなかったのではないか」とみている。
◇親心の説教、逆効果にも
親子の心理に詳しい早稲田大学の山崎久美子教授(臨床心理学)の話>
父が親心で就職しろとか、現実は厳しいと説教しても、息子は焦りを感じている中で、逆に自分が見守られているという感覚が得られず、暴力に走ることがある。
団塊世代の父が、努力を重ねて「小さな幸せ」を全うしようとしてきた自分の生き方を、口論で次男に否定され、自尊心を傷つけられたことが事件のきっかけになったと予想される。
解決に一定の時間がかかったかもしれないが、せめて身近な相談者がいれば、不満や怒りを吸収してくれて、展開が変わった可能性がある。
家庭内暴力に悩んだ末の犯行。土地はそのまま。
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